看護師の腰痛対策は三つの層で考える|移乗の負担を減らす方法と休む判断
▼この記事の監修者
阿部純治(あべ じゅんじ)
柔道整復師(国家資格)/CUREPROグループ代表
中央医療学園専門学校(現:日本総合医療専門学校)卒業。整形外科クリニック・大手整骨院グループ等での勤務経験を経て、2011年創業。施術歴20年、延べ5万人以上の施術実績。骨盤と下半身の構造改善を得意とする。
「移乗介助のあと、腰が抜けそうになった」「夜勤明けは腰が固まって、靴下がはけない」。看護師の方から寄せられる腰の相談には、共通した切実さがあります。患者さんを支える仕事だからこそ、自分の腰の痛みは後回しになりがちで、「みんな痛いのが当たり前」という空気の中で我慢を重ねている方も多いのではないでしょうか。
最初にお伝えしたいのは、看護師の腰痛は根性や注意力の問題ではないということです。腰痛対策は「気をつける」では続きません。作業のしかた、姿勢の原則、回復の習慣という三つの層で、仕組みとして組み立てる必要があります。実際、国の指針も、看護の腰痛を個人ではなく職場全体で管理すべき課題と位置づけています。
本記事では、立ち仕事や介助作業に携わる方の腰を数多く見てきた整体院グループを運営する柔道整復師の立場から、看護師の腰痛対策を三つの層に分けて具体的にお伝えします。あわせて、我慢せず休む・受診する判断の目安も整理します。
この記事でわかること
- 看護師に腰痛が多い構造的な理由と、国の指針が示す考え方
- 作業・姿勢・回復の三つの層でつくる腰痛対策の具体策
- コルセットの正しい付き合い方
- 受診・休む・働き方を見直す判断の目安と危険サイン
看護師の腰痛は個人の不注意ではなく仕事の構造から生まれる

まず、痛みの背景を正しく捉えましょう。職場での腰痛は特別なことではなく、厚生労働省などがまとめた看護従事者向けの資料によると、休業四日以上の業務上疾病のうち約六割を腰痛が占めるとされています。しかも看護の現場には、腰に負担が集中する条件がそろっています。
- 移乗介助や体位変換など、人の体重を支える作業が日常的にある
- 清拭、おむつ交換、採血、記録など、前かがみや中腰の時間が長い
- 夜勤を含む交代勤務で、疲労が回復しきる前に次の負担が来る
国もこの構造を問題視しています。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」は、改訂で適用対象を福祉・医療分野の介護・看護作業全般に広げ、腰痛を職場の労働衛生管理として予防すべき課題と明示しました。
つまり、看護師の腰痛は「あなたの体の使い方が下手だから」ではなく、仕事の構造が生む職業上のリスクなのです。だからこそ対策も、次の三つの層で立体的に組みます。
| 層 | 内容 | ねらい |
|---|---|---|
| 作業の層 | 人力で抱え上げない仕組みに変える | 負担の発生源そのものを減らす |
| 姿勢の層 | 移乗と前屈の体の使い方を整える | 避けられない作業の負担を最小にする |
| 回復の層 | 勤務中と夜勤明けの回復習慣をつくる | 疲労の借金を翌日に持ち越さない |
介助職全体に共通する負担の減らし方は、介護士の腰痛対策でも具体的に整理しています。
作業の層。人力で抱え上げない働き方に変える

三つの層の中で、効果がいちばん大きいのがこの層です。職場における腰痛予防対策指針では、腰部に著しく負担のかかる移乗介助などについて、リフトやスライディングシートなどの福祉用具を積極的に使い、原則として人力のみで人を抱え上げないことが示されています。「原則、人を人力で抱えない」。これが国の示す出発点です。
現場でできることを挙げます。
- スライディングシートやスライディングボードを、遠い倉庫ではなく病室の近くに常備してもらう
- 体格差の大きい患者さんの移乗は、一人で頑張らず二人介助を基本にする
- ベッドや車いすの位置関係をあらかじめ整え、持ち上げる距離と回数そのものを減らす
- 電動ベッドの昇降機能を、時間がなくても必ず使う
とりわけ新人の時期は、「早くできる先輩」に合わせて器具を使わず抱えてしまいがちです。しかし、腰は消耗品に近い性質を持っています。若いうちの無理は、数年後に必ず請求書になって届きます。
器具を使うことは手抜きではなく、指針が求める正しい働き方だと覚えておいてください。設備が足りない場合、指針を根拠に職場へ改善を相談するのも立派な腰痛対策です。
姿勢の層。移乗と前屈は三つの原則で守る

器具や人手でカバーしきれない場面では、体の使い方が腰を守る最後の砦になります。細かなテクニックは数多くありますが、覚えるべき原則は三つに絞れます。
原則一。対象にできるだけ近づき、重心を落とす
腰への負担は、支える対象と自分の距離に比例して跳ね上がります。腕を伸ばして支えるのではなく、体を寄せ、膝と股関節を曲げて腰を落とし、脚の力で支えましょう。ベッド柵や車いすのアームは、可能な範囲で先にどけておくと近づきやすくなります。
原則二。腰をひねらず、足の向きで方向を変える
移乗でいちばん危ないのは、支えたまま上半身だけをねじる瞬間です。ぎっくり腰の引き金にもなりやすい動きです。向きを変えるときは、腰ではなく足を踏み替えて体ごと向きを変えてください。
原則三。ベッドの高さを合わせ、前屈の角度を減らす
清拭や処置のたびに深くかがんでいないでしょうか。ベッドを自分の腰の高さまで上げるだけで、前屈の角度は大きく減ります。数秒の操作を惜しんだ分だけ、腰が支払うことになります。おむつ交換や記録の姿勢も同じで、台の高さと足の位置を先に整えるのが基本です。
中腰の時間を減らすための高さ合わせは、保育士の腰痛対策でも詳しく解説しています。
回復の層。夜勤と休日の過ごし方で借金をためない

作業と姿勢を整えても、看護の仕事から負担をゼロにはできません。だからこそ、たまった疲労をその日のうちに減らす回復の層が要ります。指針でも、介護・看護作業に従事する人には、作業の前後や合間に筋疲労の回復や柔軟性を高める腰痛予防の体操を行うことが勧められています。
勤務中は、休憩のたびに一分でよいので腰まわりを動かしてください。壁に手をついて軽く腰を反らす、その場で骨盤を前後にゆっくり動かす、といった小さな体操で、同じ姿勢で固まった筋肉がほどけます。自宅では、痛みのない範囲で次のストレッチを寝る前の習慣にすると、腰まわりの緊張がゆるみやすくなります。
- 膝抱えストレッチ。あお向けで両膝を胸に引き寄せ、三十秒キープして腰の後ろを伸ばす
- 四つ這いの背中丸め。四つ這いで背中をゆっくり丸める、戻すを十回くり返す
- お尻のストレッチ。あお向けで片方の足首を反対の膝に掛け、脚を胸へ引き寄せて三十秒
どのストレッチも、反動をつけず呼吸を止めないのが基本です。行っている最中に痛みやしびれが強くなる場合は中止し、受診の目安に照らして判断してください。
長時間同じ姿勢になる場合は、長距離運転の腰痛クッションで解説している支え方も参考になります。
夜勤明けの過ごし方も腰に響きます。帰宅後すぐ長時間眠ると生活リズムごと崩れやすいため、仮眠は二〜三時間程度にとどめ、入浴で体を温めてから休むと筋肉の緊張がゆるみます。柔らかすぎる寝具で腰が沈み込む方は、寝姿勢の見直しも一案です。姿勢全体の整え方は姿勢改善の方法で詳しく解説しています。
腰の負担を我慢し続けている方へ
危険サインがある場合は医療機関を優先してください。検査で大きな異常がなく、仕事中の姿勢や体の使い方を見直したい方はCUREPROへご相談いただけます。
コルセットは外す前提で使う

看護師の方からよく質問を受けるのがコルセットです。結論から言えば、痛みが強い時期や負担の大きい業務の間だけ使う一時的な支えとしては選択肢になります。指針にも、必要に応じて腰部保護ベルトなどを使わせるという記載があります。
一方で、痛みが落ち着いた後も一日中着け続けるのはおすすめしません。体幹を支える筋肉の出番が減った状態が長く続くと、外したときに腰を支えにくく感じる方が少なくないためです。「痛い時期と重い業務のときに着け、落ち着いたら外して自分の筋肉で支える」。この外す前提の使い方を守りましょう。体幹の支えが弱っている感覚がある方はインナーマッスル低下の解説も参考になるはずです。
休む・受診する判断を先延ばしにしない

ここで、看護師向けの腰痛記事ではあまり正面から語られない話をします。「患者さんに迷惑をかけられない」「人手が足りない」という理由で、受診や休む判断を先延ばしにする方が、この仕事には本当に多いのです。しかし、次のサインがあるときは、シフトより先に自分の体を診てもらってください。
| サイン | 考えられること |
|---|---|
| お尻から脚にかけてのしびれ、力の入りにくさ | 坐骨神経の圧迫や腰椎椎間板ヘルニアなどの評価が必要 |
| 排尿や排便の感覚の異常 | 緊急性の高い神経症状の可能性 |
| 発熱を伴う腰の痛み、安静にしても夜間に痛む | 炎症や内科的な病気の評価が必要 |
| 転倒などの後から痛みが続く | 骨折の確認が必要 |
| 動けないほどの急な激痛 | まず安楽な姿勢で安静にし、動けるようになってから受診を検討 |
移乗介助中に起きたぎっくり腰のように、業務が原因の腰痛は労災保険の対象になり得ます。該当しそうなときは自己判断で抱え込まず、職場の担当部署や労働基準監督署に相談してください。休むことに罪悪感を持つ必要はありません。
指針でも、腰痛で休むことを受け入れられる職場の環境づくりが挙げられており、休む判断は制度が想定している正当な選択です。
そして、「腰が限界だから辞めるしかない」と思い詰める前に、段階があることも知っておいてください。部署の変更、夜勤回数の調整、福祉用具の導入された職場という選択肢は、退職よりずっと手前にあります。体の状態を整えながら、働き方の調整を職場と話し合う。この順番で考えるほうが、キャリアも腰も守れます。
運動やストレッチで痛みが増える方向の見分け方は、ヨガで腰痛が悪化する原因も参考にしてください。
看護師の腰痛対策に関するよくある質問

ぎっくり腰になったら何日休めばよいですか
一律の日数は言えません。強い痛みの時期は無理に動かず、痛みが落ち着いてきたら動ける範囲で日常動作を再開するのが現在の一般的な考え方です。数日たっても動けない、しびれを伴う場合は受診してください。ぎっくり腰の詳しい経過はぎっくり腰のページで整理しています。
湿布と痛み止めで様子を見ていれば大丈夫ですか
短期間なら選択肢です。ただし、何週間も湿布でしのぎ続けている状態は、原因が放置されているサインでもあります。痛みが一か月近く続く、繰り返す場合は、医療機関で評価を受けたうえで、作業・姿勢・回復の三層を見直してください。
腰痛があっても夜勤を続けてよいですか
危険サインがなく、日常動作が保てているなら、直ちに夜勤を外れる必要はありません。ただし、痛みが夜勤のたびに強くなっていくなら、体からの警告です。上司への申告と勤務調整の相談を、悪化する前に始めましょう。
新人でまだ体が慣れていないから腰が痛いのでしょうか
慣れだけの問題ではありません。経験の浅い時期は、介助の段取りに余裕がないうえ、器具の使用や二人介助を頼む遠慮も重なって、腰への負担がむしろ大きくなりがちです。体力不足を責めるより、器具を使う・頼むという作業の層から整えるのが先です。痛みを我慢して覚えた動きは、その後何年も腰を削り続けます。
整体にはどんなタイミングで行けばよいですか
危険サインがある場合や急性期は医療機関が先です。そのうえで、検査で大きな異常はないのに痛みやこわばりが続く、姿勢や体の使い方の癖を客観的に見てほしい、という段階が整体の出番です。仕事を続けながら体を整えたい方に向いています。
まとめ|看護師の腰痛対策は仕組みにして続ける
看護師の腰痛対策は、人力で抱え上げない作業への転換、近づく・ひねらない・高さを合わせるという姿勢の三原則、勤務中の小さな体操と夜勤明けの回復習慣という三つの層でできています。
コルセットは外す前提で使い、しびれや発熱などのサインがあれば迷わず受診する。腰痛で休むことは制度が認めた正当な判断であり、辞める前には働き方を調整する段階があります。
頑張りではなく仕組みで、腰と一緒に長く働ける体をつくっていきましょう。
CUREPROは、首都圏で整体院を展開する私たちが「人生のパフォーマンスを上げる整体」を掲げ、痛む場所だけでなく、そこに負担を集めている姿勢や体の使い方まで含めて状態を整理している整体院です。医療職の方の来店も多く、平日夜や土日にも通えるため、夜勤明けや休日のメンテナンスに組み込みやすいのも特徴です。移乗のたびに腰が悲鳴を上げている、湿布でしのぐ毎日から抜け出したいという方は、腰痛のご案内をご覧のうえ、お近くの店舗にご相談ください。
この記事の監修者

阿部純治(あべ じゅんじ)
柔道整復師(国家資格)・株式会社May-Plus代表
2011年に整体院を開業、2013年に株式会社May-Plusを設立。CUREPROブランドで首都圏(東京・埼玉・千葉)に10店舗を展開。保険診療に依存しない構造改善型整体モデルを推進している。
監修者コメント
看護師の方の腰を診ていて感じるのは、体の問題と同じくらい「休めない空気」が痛みを長引かせているということです。器具を使うこと、二人で介助すること、痛いときに休むこと。どれも手抜きではなく、国の指針が勧める働き方です。この記事が、ご自身の腰を守る交渉材料になればうれしく思います。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断や医療行為を代替するものではありません。しびれ、発熱、排尿の異常、外傷後の痛みなどがある場合は、整形外科などの医療機関を受診してください。労災保険の適用可否は個別の判断となるため、職場の担当部署や労働基準監督署にご確認ください。
この記事の監修者
阿部純治(あべ じゅんじ)
柔道整復師(国家資格)/CUREPROグループ代表
中央医療学園専門学校(現:日本総合医療専門学校)卒業。整形外科クリニック・大手整骨院グループ等での勤務経験を経て、2011年創業。施術歴20年、延べ5万人以上の施術実績。骨盤と下半身の構造改善を得意とする。