介護士の腰痛対策は抱えないことから始まる|4層で組み立てる守り方
▼この記事の監修者
阿部純治(あべ じゅんじ)
柔道整復師(国家資格)/CUREPROグループ代表
中央医療学園専門学校(現:日本総合医療専門学校)卒業。整形外科クリニック・大手整骨院グループ等での勤務経験を経て、2011年創業。施術歴20年、延べ5万人以上の施術実績。骨盤と下半身の構造改善を得意とする。
「移乗のたびに腰がずしっとくる。コルセットを巻いて、湿布を貼って、だましだまし働いている」。介護の現場で働く方から、この言葉を何度聞いたか分かりません。利用者さんを支える仕事だから、腰痛は職業病で仕方ない。そうあきらめている方も多いはずです。けれど、その前提は今の時代、半分まちがっています。
整体院を運営する柔道整復師として、数多くの介護職の方の体を見てきた立場から、先に核心をお伝えします。介護士の腰痛対策の出発点は、我慢でも筋トレでもなく、抱えない介助への転換です。国の腰痛予防対策の指針でも、人を抱え上げる作業はリフトなどを活用し、原則として人力では行わせないこととされています。個人の頑張りで耐える時代は、制度の上ではすでに終わっているのです。
夜間の休息環境も見直したい方は、寝起きの腰痛とマットレスの選び方も参考にしてください。
本記事では、介護の腰痛が起こる仕組みから、動作、道具と環境、体のケア、職場の仕組みという4つの層での対策の組み立て方、知識があっても痛めてしまう人が見直すべき体の条件、受診すべきサインまで、CUREPROを運営する柔道整復師の視点で順にお伝えします。
この記事でわかること
- 介護士の腰痛対策を4つの層で組み立てる考え方
- 国の指針が示す、抱え上げを人力で行わない原則
- 移乗や体位変換で腰に負担を集めない動作の要点
- ボディメカニクスを知っていても痛める人が見直す体の条件
- 我慢せずに受診したい腰のサインと職場への伝え方
介護士の腰痛対策は抱えない介助への転換から始まる

まず、対策の全体図から共有します。介護の腰痛対策は、ひとつの必殺技ではなく、4つの層の積み重ねです。どれかひとつに頼ると、残りの層の穴から腰痛は入り込んできます。
| 層 | 中身 | 始めやすさ |
|---|---|---|
| 層1 動作 | 腰に負担を集めない介助の動き方 | 今日から一人でできる |
| 層2 道具と環境 | 福祉用具とベッド高さで抱える場面を減らす | 職場にあるものから使える |
| 層3 体のケア | 勤務の前後で腰まわりをリセットする | 1回数分から続けられる |
| 層4 職場の仕組み | 2人介助や用具の導入を職場として整える | 相談することから始まる |
この4層の土台にあるのが、抱えないという原則です。厚生労働省の職場における腰痛予防対策指針のリーフレットでは、人を抱え上げる作業はリフトなどを積極的に使用し、原則として人力では行わせないようにすることが示されています。腰痛は根性で防ぐものではなく、抱える場面そのものを設計で減らすもの。ここが本記事の出発点です。
介護の現場で腰痛が起こるのは負担の条件が重なるからになる

対策の前に、なぜ介護の仕事でこれほど腰痛が多いのかを整理しておきましょう。原因はひとつではなく、次のような条件の重なりです。
- 移乗や体位変換で、自分より重い、または脱力した体を支える場面が毎日ある
- おむつ交換や入浴介助、食事介助で、前かがみと中腰の姿勢が長く続く
- ベッドや浴室の高さが介助者の体に合っておらず、腰をかがめて作業する
- 人手が足りず、本来2人で行う介助を1人で急いで行ってしまう
- 夜勤や不規則な勤務で、疲労が抜けないまま次の負担がかかる
並べてみると分かるとおり、動作の問題、環境の問題、体制の問題が混ざっています。混ざっているからこそ、対策も動作だけ、ストレッチだけでは足りず、層で組む必要があるのです。ひとつずつ見ていきましょう。
層1の対策は腰に負担を集めない動作の原則にある

最初の層は、介助の動き方です。ボディメカニクスという名前で研修を受けた方も多いと思いますが、現場で効く要点は次の数個に絞られます。
- 利用者さんにできるだけ近づき、自分の重心と相手の重心を近づけてから動かす
- 足を前後か左右に開いて支える面を広くとり、膝を曲げて重心を落とす
- 持ち上げるのではなく、水平に滑らせる、手前に引く動きに置き換える
- 相手の腕を組む、膝を立てるなど、体を小さくまとめてから動かす
- 腕の力ではなく、脚とお尻の大きな筋肉で動きを作る
共通しているのは、腰を曲げてひねる瞬間を作らない、という一点です。腰は体の中継地点であり、脚とお尻が仕事をしないとき、その分の負担を黙って引き受けます。そして、急いでいるときほど、近づかず、腰だけで済ませる動きが出やすいと見ています。動作の質は、時間の余裕とセットで考えてください。
層2の対策は道具と環境で抱える場面そのものを減らす

2つ目の層は、道具です。どれだけ動作が上手でも、人ひとりの体重を人力で抱え上げる負担は消せません。だからこそ指針は道具の活用を求めています。スライディングシートやスライディングボードは、抱え上げる移乗を滑らせる移乗に変えてくれる道具で、リフトが導入されていれば、抱え上げ自体をなくせます。職場にあるのに棚で眠っている道具はないか、まず確かめてみてください。
環境の調整も同じ層に入ります。ベッドの高さを介助の内容に合わせて毎回変える、作業する側にスペースを作ってから始める、といったひと手間が、前かがみの時間を確実に削ります。そしてもうひとつ、忘れられがちな道具が、利用者さん自身の力です。声かけと手すりで本人に動ける部分を動いてもらうことは、自立支援であると同時に、あなたの腰を守る介助技術でもあります。
層3の対策は勤務の前後で腰まわりをリセットする

3つ目の層は、自分の体のケアです。厚生労働省の介護業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズでも、同一姿勢を長く続けないことや、体をほぐす運動が紹介されています。難しいメニューは要りません。勤務の前後や休憩に、次の3つを20秒ずつ行うだけでも、腰まわりに疲労をためこみにくくなります。
立ったまま足首を持ってかかとをお尻へ近づけ、前ももを伸ばす。椅子に座って片方の足首を反対の膝に載せ、上体を軽く前へ倒してお尻の奥を伸ばす。両手を前で組んで背中を丸め、肩甲骨の間を広げる。どれも、痛みのない気持ちよく伸びる範囲で止めるのが原則です。あわせて、前かがみ作業が続いたら一度立ち上がって腰を軽く反らす、小休止を意識的に挟むといった、勤務中のリセットも層3の仕事になります。
層4の対策は職場の仕組みに乗って個人で抱え込まない

4つ目の層が、いちばん言いにくく、いちばん大切な層です。指針が対策を求めている相手は、働くあなた個人ではなく、事業者、つまり職場です。腰に大きな負担がかかる介助を無理に1人で行わない体制、リフトや用具の導入、作業の割り当ての見直しは、職場が取り組むべき課題として位置づけられています。
だからこそ、2人介助にしてほしい、スライディングシートを増やしてほしいという相談は、わがままではなく、指針に沿った正当な提案です。腰を痛めたことを隠して働き続けるのも、逆効果でしかありません。あなたが腰痛で離脱することは、職場にとっても大きな損失であり、予防への投資は職場の利益でもあるのです。腰痛を個人の弱さの問題にしないこと。層4の本質は、この意識の切り替えにあります。
ボディメカニクスを知っていても痛めるなら体の条件を疑う

ここからは、介護向けの腰痛記事ではほとんど語られない核心です。研修で動作を学び、頭では分かっているのに腰を痛める方には、共通点があります。膝を曲げて重心を落とせと言われても、そもそもしゃがめない体になっているのです。
試しに、かかとを床につけたまま深くしゃがんでみてください。かかとが浮く、後ろに倒れそうになる、膝や股関節が突っ張る。そんな方は、股関節と足首の硬さ、骨盤が後ろに倒れた姿勢の癖によって、重心を落とす動きそのものが使えなくなっています。使えなければ、体は代わりに腰を曲げて高さを合わせるしかありません。つまり、動作の知識と実際の動きの間に、体の条件というギャップがあるのです。骨盤が後ろに倒れる背景と整え方は骨盤後傾の改善法で、前かがみが癖になった背中の立て直しは猫背の原因と改善法で詳しく扱っています。ボディメカニクスは、しゃがめる体があって初めて機能する技術だと考えてください。骨格へのアプローチを比較する際は、骨格矯正と整体の違いも判断材料になります。
我慢せずに受診したい腰のサインを知っておく

最後に、セルフケアの範囲を超えているサインを共有します。次に当てはまるときは、仕事を調整してでも医療機関で確認してください。
- お尻から脚にかけてのしびれや痛みがあり、力が入りにくい
- 排尿や排便の感覚がおかしい(この場合はただちに受診)
- 夜、寝ていても痛みで目が覚める、じっとしていても痛む
- 発熱を伴う、体重が理由なく減っている
- 介助中にぎくっとなり、動けないほどの痛みが出た
ぎっくり腰のような急な痛みが出たときは、その場で無理に介助を続けず、必ず職場に報告してください。報告は、休むためだけでなく、業務でのけがとして扱われるかの判断や、再発を防ぐ体制づくりの材料にもなります。仕事に関わる腰痛の補償の可否は個々の状況によるため、職場の担当者や労働基準監督署などの窓口に確認しましょう。
よくある質問

コルセットは着けたまま働いてよいですか
場面を絞るのが基本です。負担の大きい介助の時間帯に絞って使う分には支えになりますが、勤務中ずっと頼ると、体幹の筋肉が働きにくくなる懸念が指摘されています。痛みが強くてコルセットが手放せない状態自体が受診のサインなので、使い方も含めて医師に相談してください。
介護の腰痛で労災は認められますか
認められる場合があります。業務が原因と判断されるかどうかには基準があり、発症の状況や業務内容によって扱いが変わります。大切なのは、痛めた日時と状況をすぐ職場に報告し、記録を残しておくことです。手続きや判断の詳細は、職場の担当者と労働基準監督署に確認してください。
腰痛持ちでも介護の仕事を続けられますか
続けている方は大勢います。ただし、条件があります。本記事の4層、とくに道具の活用と職場の体制が整っているかどうかで、腰への負担は大きく変わります。今の職場で層2と層4がどうしても動かないなら、身体介助の比重が異なる働き方や職場を検討することも、体を守る選択肢のひとつです。
痛いときはお風呂で温めてよいですか
時期によります。ぎくっとやった直後の強い痛みの時期は、長い入浴で温めると痛みが増すことがあり、慎重にしたほうがよいでしょう。慢性的な張りやだるさには、入浴で血行を促すことが心地よく働く方が多いと感じています。判断に迷う痛みは、自己流で続けず受診で確かめてください。
この記事の監修者

阿部純治(あべ じゅんじ)。柔道整復師(国家資格)、株式会社May-Plus代表。2011年に整体院を開業し、2013年に法人を設立。CUREPROブランドで東京・埼玉・千葉に10店舗を展開しています。
監修者コメント。「介護職の方の体を見ていて感じるのは、皆さん、利用者さんの体のことは驚くほど知っているのに、自分の体は後回しにしている、ということです。しゃがめない股関節のまま、正しい介助姿勢を取ろうとしても取れません。腰痛は、あなたの技術不足でも根性不足でもなく、抱える場面の多さと、体の条件のずれが作るものです。道具と職場に頼ることをためらわないでください。そして、支える側の体を整えることも、立派なケアの仕事の一部だと思っています」
まとめ|介護士の腰痛対策は抱えないことを土台に4層で守る
介護士の腰痛対策は、抱えない介助への転換を土台に、動作、道具と環境、体のケア、職場の仕組みという4層で組み立てるものです。国の指針も、人力での抱え上げは原則行わせないとし、対策の責任を職場に求めています。ボディメカニクスがうまく使えない方は、技術の前に、しゃがめる股関節と骨盤の状態という体の条件を確かめてください。そして、しびれや夜間の痛みは我慢の対象ではなく、受診のサインです。
CUREPROには、移乗介助で腰を痛めて以来、疲れが抜けなくなったという介護職の方が数多く来られます。私たちが確かめるのは腰そのものだけでなく、しゃがみ込みの深さ、股関節と足首の動き、骨盤の傾きといった、介助動作を支える土台です。施術の考え方はCUREPROの整体とはでご覧いただけます。かかとをつけてしゃがめるかどうか、今日試した結果を持って来てください。人を支え続けるあなたの体を、東京・埼玉・千葉のCUREPRO各院が構造から支えます。
この記事の監修者
阿部純治(あべ じゅんじ)
柔道整復師(国家資格)/CUREPROグループ代表
中央医療学園専門学校(現:日本総合医療専門学校)卒業。整形外科クリニック・大手整骨院グループ等での勤務経験を経て、2011年創業。施術歴20年、延べ5万人以上の施術実績。骨盤と下半身の構造改善を得意とする。