登山の下りで膝痛が出るのはブレーキの集中が原因|歩き方と道具と脚づくり
▼この記事の監修者
阿部純治(あべ じゅんじ)
柔道整復師(国家資格)/CUREPROグループ代表
中央医療学園専門学校(現:日本総合医療専門学校)卒業。整形外科クリニック・大手整骨院グループ等での勤務経験を経て、2011年創業。施術歴20年、延べ5万人以上の施術実績。骨盤と下半身の構造改善を得意とする。
「登りは平気なのに、下りになると膝が痛み出す」「下山の後半、一段下りるたびに膝の外側にズキッとくる」。登山者の体の悩みで、膝ほど多く聞くものはありません。しかも不思議なことに、苦しいはずの登りではなく、下りでばかり痛む。この非対称こそが、登山の膝痛を理解する入口です。
下りの一歩は、体重と荷物の重さを片脚で受け止める連続ブレーキです。太ももの前の筋肉が伸ばされながら踏ん張ることで衝撃を吸収しており、この使い方は登りよりずっと筋肉と腱にこたえます。つまり、下りで膝が痛むのは膝が弱いからではなく、ブレーキの仕事が膝まわりの一点に集中しているから。対策は、その仕事を歩き方、道具、脚づくりの三方向へ分散することに尽きます。
本記事では、スポーツや趣味を続けたい方の膝を数多く見てきた整体院グループを運営する柔道整復師の立場から、下りで膝が痛む仕組み、痛む場所別のタイプ、衝撃を減らす下り方、道具の使い方、山行前の脚づくり、そして山中で痛み出したときの対処までを順にお伝えします。
この記事でわかること
- 登りは平気で下りだけ膝痛が出る理由
- 痛む場所からわかる四つのタイプ
- 衝撃を減らす下り方の三つの原則と、ストック・サポーターの使い方
- 山中で痛み出したときの対処と、受診の目安
下りで膝が痛むのは着地のブレーキが集中するから

登りでは、筋肉は縮みながら体を持ち上げます。一方の下りでは、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)が引き伸ばされながらブレーキをかけ続けます。この「伸ばされながら踏ん張る」使い方は筋肉と腱への負担が大きく、疲労もたまりやすいことが知られています。段差が大きいほど、荷物が重いほど、そしてスピードが出るほど、一歩あたりのブレーキは強くなり、下山後半に痛みが出やすいのはこの積み重ねの結果です。
もう一つの変数が荷物です。登山では背負った重さがそのまま着地の衝撃に上乗せされます。テント泊装備での下りが日帰りよりつらいのは当然のことで、パッキングの軽量化や、下り区間に入る前に水分を飲んで荷を軽くしておくといった工夫も、立派な膝痛対策の一部になります。
痛む場所によって、負担が集中している組織はおおまかに見分けられます。
| 痛む場所 | 考えられるタイプ |
|---|---|
| 膝の外側 | 腸脛靭帯炎(いわゆるランナー膝)。太ももの外側の靭帯が骨とこすれて炎症を起こすタイプ |
| お皿の下 | 膝蓋腱への負担。ブレーキ動作のくり返しで腱が刺激されるタイプ |
| 膝の内側のやや下 | 鵞足部への負担。内ももや裏ももの腱が付着する部分の炎症タイプ |
| お皿の奥や膝全体 | 関節の軟骨への負担。中高年では変形性の変化が背景にあることも |
特に下りと相性が悪いのが膝の外側のタイプで、公的医療機関であるJCHO東京山手メディカルセンターの解説でも、膝の曲げ伸ばしのくり返しで靭帯と骨の間に摩擦が生じて痛む病態とされ、症状が安定するまで下り坂の練習は避けることが復帰の注意点に挙げられています。外側の詳しい解説はランナー膝(腸脛靭帯炎)、膝全体の変形性の変化は変形性膝関節症のページでも整理しています。
膝への負担を調整する考え方は、自転車で膝痛が出るときのサドル調整でも紹介しています。
下り方の三つの原則で一歩の衝撃を減らす

同じ山を下りても、歩き方しだいで膝が受け取る衝撃は変わります。覚えるべき原則は三つです。
原則一。歩幅を小さくし、段差を刻む
大股で一気に下りる一歩は、その分だけ落下距離が長く、着地のブレーキも強くなります。歩幅を小さく、大きな段差は途中の足場を拾って二歩に分ける。地味ですが、一歩あたりの衝撃を減らす最も確実な方法です。急がば刻め、が下りの合言葉です。
原則二。膝を軽く曲げて着地し、つま先と膝の向きをそろえる
膝を伸ばしきったままかかとから着くと、衝撃が骨と関節に直接響きます。膝を軽く曲げ、足裏全体で静かに置くように着地すると、筋肉がクッションとして働きます。あわせて、つま先と膝の向きが常に同じ方向を向くように意識してください。膝だけが内側に入るねじれ着地は、外側や内側の痛みを招く典型的な癖です。
原則三。急な斜面はジグザグと横向きを使う
直線的に下りると、斜度がそのままブレーキの強さになります。九十九折りに斜めへ下りる、特に急な箇所では体を横に向けて一段ずつ下りると、一歩の落差と膝への負担を小さくできます。時間は少しかかりますが、下山後半の膝の余力がまるで違ってきます。
ストックとサポーターは膝の仕事を肩代わりする道具

フォームで減らしきれない分は、道具に分担させましょう。まずストックです。二本使いで、下りでは登りよりやや長めに調整し、体より先に突いて腕にも体重を逃がします。ブレーキの仕事の一部を上半身が引き受けてくれるため、膝への集中が目に見えて減ります。使い慣れないうちは平地や低山で突く位置の感覚をつかんでおくと安心です。
膝用のサポーターやテーピングは、関節のぐらつきを抑えて安心感を高める補助として役立ちます。ただし、着ければ痛みの原因が消えるわけではありません。頼りきって普段どおりのペースで下りれば、負担の総量は変わらないままです。位置づけはあくまで補助輪と考え、痛みが続くなら原因の評価を優先してください。靴側では、下山前に靴ひもを締め直し、足が靴の中で前に滑らないようにしておくと、つま先と膝への余計な力みが減ります。
下りに耐える脚は山に行く前につくる

下りのブレーキを受け止めるのは、最終的には太ももとお尻の筋力です。月に一度の山行だけで鍛えるのは難しいため、平日に次の三つを積み立てておきましょう。
- 椅子を使ったスクワット。椅子に座る直前で止めてゆっくり立ち上がる動きを十回×二セット。膝がつま先より大きく前に出ないように
- ゆっくり下りる段差練習。低い段差から三秒かけて片脚で下りる動きを左右十回ずつ。下りのブレーキそのものの練習になります
- お尻の横のトレーニング。横向きに寝て上の脚をゆっくり上げ下げ十五回ずつ。着地のねじれを抑える筋肉を育てます
いずれも痛みのない範囲で、山行の直前ではなく普段から行うのがコツです。あわせて、下山後はふくらはぎと太ももを軽く伸ばし、入浴で温めて疲労を持ち越さないこと。翌日以降のむくみや張りが気になる方は足のむくみを解消する方法も参考になります。
あわせて、山行計画そのものも脚づくりの延長で考えましょう。久しぶりの登山でいきなり標高差の大きい山を選ばない、下山にケーブルカーやリフトを使える山から再開する、といったコース設定は、弱った脚に段階的に負荷を戻す安全な進め方です。登山を長く続けている方ほど、山選びで膝を守っています。
平地での動作づくりには、健康ウォーキングの歩き方と目的・部位別ストレッチも参考になります。
山の途中で痛み出したときの下山マネジメント

ここで、装備や鍛え方の記事ではあまり語られない、実践的な話をします。膝痛のいちばん困る点は、痛み出すのがたいてい山の中だということです。撤退も救助もそう簡単ではない場所で痛みが出たら、次の順で立て直してください。
- まずペースを落とし、荷物の重い物を同行者に分担してもらう
- ストックを最大限に使い、歩幅を半分にして原則どおりの下り方に切り替える
- 休憩をこまめに取り、痛む場所を確認する。腫れや熱っぽさが強い場合は無理に急がない
- 捻挫や転倒など明らかなケガの場合は、冷却と固定などの応急処置を優先する。処置の基本は日本整形外科学会のスポーツ外傷の応急処置が参考になります
やってはいけないのは、痛みをこらえて勢いで駆け下りることです。ブレーキを筋肉で受けられなくなった膝は、次の一歩で靭帯や半月板を痛めるリスクが上がります。予定より遅れても、刻んで下りるほうが結果的に早く、安全です。
短時間から毎日続ける方法は、毎日10分のストレッチも参考になります。
下りの膝痛を繰り返す方へ
腫れや引っかかり、不安定感、転倒後の痛みがある場合は整形外科を優先してください。大きな異常がなく、膝に負担を集める体の使い方を見直したい方はご相談いただけます。
受診の目安。この症状は登山より先に整形外科へ

下山後に痛みが引けば、フォームと脚づくりの見直しで次の山に備えられます。一方、次のサインがあるときは、次の山行を計画する前に整形外科で評価を受けてください。
| サイン | 考えられること |
|---|---|
| 膝がはっきり腫れる、熱を持つ、水がたまった感じがする | 関節内の炎症や損傷の評価が必要 |
| 引っかかり感がある、膝が伸びきらない・曲がりきらない | 半月板などの損傷の可能性 |
| ガクッと崩れる不安定感がある | 靭帯の損傷の評価が必要 |
| 転倒やひねった後から痛みが続く | 骨折や靭帯・半月板損傷の確認が必要 |
| 安静にしても数週間痛みが引かない、悪化する | 変形性の変化などの評価が必要 |
特に中高年で「山のたびに痛み、日常でも階段がつらくなってきた」という場合は、軟骨の変化が始まっているサインかもしれません。早めに状態を知ることが、登山を長く続けるいちばんの近道です。
登山の下りの膝痛に関するよくある質問

登りは全く痛くないのに、下りだけ痛むのは異常ですか
珍しいことではありません。下りは筋肉が伸ばされながらブレーキをかける使い方になるため、登りより膝まわりへの負担が大きいのです。異常というより、負担の集中を教えてくれる信号と捉えて、下り方と脚づくりを見直すきっかけにしてください。
サポーターは登りから着けておくべきですか
痛みへの不安が強い日は、下りに入る前から着けておくと安心感につながります。ただし常用が前提になっている状態は、筋力や歩き方の課題が残っているサインでもあります。補助として使いながら、原因側の対策を並行しましょう。
太ももを鍛えれば下りの膝痛はなくなりますか
筋力づくりは有効な柱の一つですが、それだけで解決するとは限りません。歩幅や着地の癖、股関節や足首の硬さ、体重や荷物の重さも負担を左右します。鍛える、下り方を変える、道具で分散する。三つを組み合わせるのが現実的です。
体重を減らせば下りの膝痛は軽くなりますか
負担の大きさは体重と荷物の重さに比例するため、減量は膝への負担を減らす方向に働きます。ただし、食事制限だけの急な減量は筋力まで落としやすく、ブレーキの受け皿を弱らせては本末転倒です。運動と食事の両輪で緩やかに、が原則です。
下山の翌日、階段の下りだけ痛むのはなぜですか
下りで酷使された太ももの筋肉の疲労と微細な損傷が回復の途中にあるためで、数日で落ち着くことがほとんどです。強い痛みが一週間以上続く場合や、腫れを伴う場合は、筋肉痛と決めつけず受診してください。
まとめ|下りの膝痛はブレーキの分散で変えられる
登山の下りで膝痛が出るのは、着地のブレーキという大仕事が膝まわりに集中しているからです。歩幅を刻み、膝を軽く曲げてつま先と向きをそろえ、急斜面はジグザグに。ストックに肩代わりさせ、サポーターは補助と割り切る。そして平日の脚づくりで受け皿を育てる。この分散の発想に切り替えるだけで、下山はこわい時間から、コントロールできる時間に変わっていきます。腫れや引っかかり、不安定感のサインだけは見逃さず、早めに整形外科で確認してください。
CUREPROは、首都圏で整体院を展開する私たちが「人生のパフォーマンスを上げる整体」を掲げ、膝そのものだけでなく、股関節や足首の硬さ、骨盤の傾きといった膝に負担を集める体のつながりまで含めて状態を整理している整体院です。「山を諦めたくないが、下りのたびに膝が不安」という方は、ご自身の体のどこがブレーキ役をさぼっているのかを一度確かめてみませんか。ランナー膝(腸脛靭帯炎)のご案内をご覧のうえ、お近くの店舗にご相談ください。
この記事の監修者

阿部純治(あべ じゅんじ)
柔道整復師(国家資格)・株式会社May-Plus代表
2011年に整体院を開業、2013年に株式会社May-Plusを設立。CUREPROブランドで首都圏(東京・埼玉・千葉)に10店舗を展開。保険診療に依存しない構造改善型整体モデルを推進している。
監修者コメント
下りの膝痛で来店される方の多くは、膝だけを気にしていますが、体を見ると股関節やお尻がブレーキの仕事をさぼっていて、膝が一人で残業しているような状態です。膝をかばうより、仲間を働かせる。この記事の脚づくりと下り方は、そのための練習だと思って取り組んでみてください。山は逃げませんから、体を先に整えましょう。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断や医療行為を代替するものではありません。腫れや熱感、引っかかり、不安定感、転倒後の痛みなどがある場合は、整形外科などの医療機関を受診してください。山行の可否は体調と天候を踏まえてご自身の責任で判断し、無理のない計画を心がけてください。
この記事の監修者
阿部純治(あべ じゅんじ)
柔道整復師(国家資格)/CUREPROグループ代表
中央医療学園専門学校(現:日本総合医療専門学校)卒業。整形外科クリニック・大手整骨院グループ等での勤務経験を経て、2011年創業。施術歴20年、延べ5万人以上の施術実績。骨盤と下半身の構造改善を得意とする。